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税金と社会保険の「年収の壁」とは?〜混乱しがちな年収の壁を解説〜

年収の壁という言葉は、パートやアルバイトで働いている方や、扶養に入っている配偶者がいる世帯にとって非常に重要な概念です。

特に、税金や社会保険に関する年収の壁は、正確な理解が難しく、混乱しがちです。

この記事では、社会保険と税金における年収の壁について、それぞれの金額や影響、そしてどのように対策を取るべきかを分かりやすく解説します。

社会保険の年収の壁

まずは社会保険の年収の壁について説明します。主に2つの壁が存在し、106万円の壁130万円の壁です。

(1)106万円の壁

これは、配偶者が企業の社会保険(健康保険や厚生年金)に加入するかどうかを決定する重要なラインです。2016年に施行されたルールにより、従業員数が一定以上の企業に勤めるパートやアルバイトは、年収が106万円を超えると社会保険に加入しなければなりません。

事業所規模については、これまで以下のように拡大されてきました。

2016年10月~2022年9月2022年10月~2024年9月2024年10月~
被保険者総数が常時501人以上被保険者総数が常時101人以上被保険者総数が常時51人以上

具体的には、学生ではなく、2ヵ月を超えて継続して雇用される見込みがある従業員は、週の労働時間が20時間以上、かつ月額賃金が88,000円(年収約106万円)以上の場合、健康保険や厚生年金に加入し、個人負担分の保険料が発生します。

(2)130万円の壁

106万円の壁が適用されない場合、つまり、従業員数51人以下の企業や、特定の条件に該当しない方については、130万円の壁が関係します。この金額を超えると、被扶養者としての資格を失い、社会保険の扶養から外れます。

扶養から外れると、自身で社会保険に加入する必要があり、その結果として健康保険や年金保険料が新たに発生します。これが収入に対する大きな負担となり、手取り収入が減る原因の一つです。

税金の年収の壁

次に、税金に関する年収の壁を解説します。こちらも複数の壁が存在し、重要なポイントとなるのが100万円の壁103万円の壁150万円の壁、そして201万円の壁です。

(1)100万円の壁(住民税)

100万円の壁とは、住民税が課税され始める基準の年収で、100万円を超えると住民税が課税されます。

住民税(所得割)については、総所得金額等が45万円以下の場合は非課税となりますので、給与収入が100万円以下でほかに所得がない場合は、住民税(所得割)はかかりません。

パート収入が100万円以下であっても、お住まいの市区町村によっては住民税(均等割)がかかる場合があります。詳しくは、お住まいの市区町村の窓口にお尋ねください。

(2)103万円の壁(所得税)

103万円の壁とは、所得税が課税され始める基準の年収です。配偶者がパートやアルバイトをしている場合、年収が103万円を超えると、所得税の対象となります。103万円という金額は、給与所得控除(55万円)と基礎控除(48万円)を差し引いた後の課税対象額がゼロになるための基準です。

年収が103万円以下であれば所得税がかからないため、収入がそのまま手取りとなりますが、これを超えると所得税が発生します。

(3)150万円の壁(配偶者特別控除の逓減)

150万円の壁は、配偶者が控除を受ける際の重要なラインです。具体的には、配偶者控除や配偶者特別控除の適用範囲が変わり始める金額です。年収が150万円を超えると、配偶者特別控除が徐々に減少(逓減)していきます。

年収が103万円以上150万円以下であれば、夫婦の合計所得が一定以下の場合、配偶者特別控除が最大で適用され、所得税の負担が軽減されます。しかし、年収が150万円を超えると、この控除額が減少し始め、最終的には消失します。

出典:国税庁

(4)201万円の壁(配偶者特別控除の対象外)

201万円の壁は、配偶者特別控除が完全に対象外になるラインです。年収が201万円を超えると、配偶者特別控除が受けられなくなります。その結果、世帯全体の税負担が増加します。この段階では、税制上の扶養としてのメリットが失われるため、世帯の収入や支出に対する計画を練る必要があります。

年収の壁が引き起こすリスクと対策

年収の壁のリスク

これらの年収の壁は、税金や社会保険料の増加によって手取りが減少する「逆進性」の問題を引き起こします。具体的な例として、以下のようなリスクが考えられます。

  • 年収106万円を超えると保険料の負担が増える

社会保険に加入することで、健康保険料や年金保険料が発生し、手取り収入が減ることになります。このため、多くのパートタイマーはこの壁を意識して労働時間を調整しがちです。

  • 税金の発生による手取りの減少

103万円や150万円の壁を超えると、所得税や配偶者控除の減少により、税金の負担が増加し、結果的に可処分所得が減る可能性があります。

  • 夫婦の収入と控除のバランスの難しさ

特に配偶者控除や配偶者特別控除の逓減は、世帯全体の収入を慎重に管理しなければ、収入増加のメリットが相殺されることになります。

年収の壁の対策とアドバイス

年収の壁を意識して働く場合、税金や社会保険料の負担を最小限に抑えるための計画が必要です。以下に、対策をいくつか紹介します。

労働時間の調整

年収の壁を意識することで、労働時間を調整することが重要です。特に、106万円や130万円、150万円の壁を超えないようにするために、勤務時間を削減することが一つの方法です。

収入を増やす戦略

あえて年収の壁を超える場合は、社会保険料や税金の増加を見越して、収入を増やす戦略を取るのも一案です。例えば、増やすことで、手取り収入が減少しないようにすることが可能です。

家計管理と節税対策

家計管理を徹底し、収入と支出のバランスを最適化することで、税金や保険料負担の増加に対応できます。

年収が増えて社会保険に加入すると、保険料の負担だけでなく受けられる保障もあります。病気やけがで休む場合は疾病手当金が支給されるため、既契約の生命保険などの見直しで支出のバランスをとることで対応が可能です。

協会けんぽ 傷病手当金

まとめ

税金と社会保険の年収の壁は、複雑で混乱しやすいものですが、理解することで適切な対策を取ることができます。年収の壁を超えないように労働時間を調整するか、それとも収入を大幅に増やして壁を超えるかは、個々の状況に応じた判断が求められます。どちらの選択を取るにしても、家計や収入をしっかりと管理し、適切な対策を講じることが重要です。

本記事の内容は、投稿時点での税法、会計基準会社法その他の法令に基づき記載しています。
また、読者が理解しやすいように厳密ではない解説をしている部分があります。
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