お知らせ 所得税

令和5事務年度 所得税及び消費税調査等の状況

国税庁では、例年11月に前事務年度の調査状況等を税目別に、報道発表しています。前回は令和5事務年度の法人税等の調査事績の概要をご紹介しました。

2回目の本記事では、令和5事務年度の所得税及び消費税調査等の状況についてご紹介します。

1回目の令和5事務年度の法人税等の調査事績の概要についてはこちらから

所得税調査の状況

所得税調査では、申告漏れの実態が明らかになるとともに、効率的な調査による追徴が進められています。

出典:国税庁 令和5事務年度所得税及び消費税調査等の状況

申告漏れ所得金額

調査による申告漏れ所得金額は約9,964億円で、前年と比較して約10%増加しました。このうち、実地調査による申告漏れは5,516億円、簡易な接触による申告漏れは4,448億円に上ります。特に簡易な接触による金額は前年より29%増加しており、効果が高まっています。

追徴税額

所得税全体の追徴税額は1,398億円で、前年より2.2%増加しました。1件当たりの追徴税額は224万円と増加しており、高額かつ悪質な事案に的を絞った効率的な調査が反映されています。

調査件数

調査件数は全体で60万5千件と前年より減少しましたが、選定の精度が向上したことで、1件当たりの追徴額が増加しています。

消費税調査の状況

個人事業者を対象とした消費税調査では、申告漏れや無申告者に対する対応がさらに強化され、過去最高の結果が記録されました。

追徴税額

追徴税額は423億円に上り、過去最高です。実地調査の1件当たり追徴税額は135万円、簡易な接触による追徴税額は63億円となっています。

無申告者への対応

無申告者に対する調査では、1件当たりの追徴税額が274万円と過去最高を記録し、総額は214億円に達しました。

特定分野への重点的調査

令和5年度の税務調査では、富裕層や新興分野、無申告者を対象とした重点的な取り組みが成果を上げています。全体の調査件数は減少傾向にあるものの、高精度な選定と効率的な調査が進められ、申告漏れ所得額および追徴税額の総額が依然として高水準を維持しています。

富裕層に対する調査の状況

令和5年度の税務調査では、富裕層を対象とした取り組みが強化されました。富裕層の申告漏れ所得額や追徴税額は、全体の平均を大きく上回っています。

具体的には、富裕層に対する1件当たりの追徴税額は707万円で、所得税全体の実地調査平均(275万円)の約2.6倍に達しました。特に海外投資を行う富裕層では、1件当たりの追徴税額が1,290万円に上り、全体平均の4.7倍に達しています。

調査件数は2,407件で、前年の2,943件と比較して減少しましたが、申告漏れ所得額の総額は655億円、追徴税額の総額は170億円と高水準を維持しています。

海外投資に関連する調査の状況

海外投資を行う個人に対しても重点的な調査が行われました。

1件当たりの追徴税額は649万円で、全体平均の約2.4倍に達しています。調査件数は2,584件で、前年の2,784件から減少したものの、申告漏れ所得額の総額は664億円、追徴税額の総額は168億円に達しました。

また、国外財産調書や共通報告基準(CRS)に基づく情報交換制度が積極的に活用され、国外資産に関連する不正行為の把握が進んでいます。

暗号資産(仮想通貨)およびシェアリングエコノミー分野の調査

新興分野である暗号資産やシェアリングエコノミーに関連する調査も実施されました。

暗号資産取引における1件当たりの追徴税額は662万円で、全体平均の約2.4倍となっています。調査件数は535件で、申告漏れ所得額の総額は126億円、追徴税額の総額は35億円でした。

シェアリングエコノミー分野では、1件当たりの追徴税額が319万円となり、ネット広告やデジタルコンテンツ取引における透明性の課題が浮き彫りになっています。

業種別の申告漏れ傾向

国税庁は、業種別の申告漏れ所得金額にも注目し、高額な上位10業種を特定し公表しています。

高額な申告漏れが目立つ業種

令和5年度の税務調査では、経営コンサルタントが1件当たりの申告漏れ所得額3,871万円、追徴税額1,040万円で最も高額でした。ホステス・ホスト業(3,654万円)やコンテンツ配信業(2,381万円)もランクインし、収益の透明性が課題となっています。

飲食業や現金取引業界のリスク

焼き鳥店(1,657万円)やスナック(1,616万円)など、現金取引が中心の飲食業が上位に位置付けられています。これら業種は売上記録の不透明さが申告漏れの主因と考えられます。

多様化する調査対象

太陽光発電(1,625万円)やくず金卸売業(2,068万円)など、伝統的な業種に加え、環境関連やデジタル分野でも不正が確認されています。国税庁は業界の多様化に対応し、高リスク業種を重点的に監視しています。

まとめ

令和5年度の所得税および消費税調査では、申告漏れや不正行為への対策が強化され、具体的な成果が公表されました。

所得税では、申告漏れ所得金額が約9,964億円に達し、前年から約10%増加。簡易な接触による調査の効果が大きく、全体の約45%を占めています。また、追徴税額は1,398億円に上り、1件当たりの追徴税額も増加しました。

富裕層や海外投資分野、新興の暗号資産取引でも調査が進められ、1件当たりの追徴税額はそれぞれ707万円、649万円、662万円と全体平均を大きく上回っています。

また、業種別では経営コンサルタントや飲食業が高額な申告漏れを記録し、収益の透明性が課題として浮上しています。

これらの結果から、国税庁は効率的な調査手法を活用し、リスクの高い分野や業種に重点を置いて対応を強化していることが明らかになりました。納税者としては、適正な申告と記録管理が今まで以上に重要となっています。

本記事の内容は、投稿時点での税法、会計基準会社法その他の法令に基づき記載しています。
また、読者が理解しやすいように厳密ではない解説をしている部分があります。
本記事に基づく情報により実務を行う場合、専門家に相談の上行うか、十分に内容を検討の上、実行して下さい。本情報の利用により損害が発生することがあっても、筆者及び当事務所は一切責任を負いかねますのでご了承下さい。

-お知らせ, 所得税