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2024年10月の最低賃金引き上げと年収106万円の壁について

2024年10月から、最低賃金が引き上げられることが決定しています。

これは、パートタイム労働者を多く抱える中小企業経営者にとって非常に重要な問題になる可能性があります。

一つは人件費の増加ですが、最低賃金の引き上げに伴い、パートタイム従業員の年収が「年収106万円の壁」に近づくことも考えられます。この「年収106万円の壁」は、従業員の働き方だけでなく、企業側の給与管理や経営にも影響を与える可能性が高いです。

この記事では、最低賃金引き上げと年収106万円の壁の関係を解説し、企業経営者が直面するリスクや課題について詳しく考察します。

最低賃金引き上げの背景と影響

2024年10月からの最低賃金引き上げにより、パートタイム労働者を多く雇用している中小企業は給与支出が増加する可能性があります。これにより、特に人件費の割合が大きい業種では収益への直接的な影響が懸念されます。

具体的なリスクとしては以下の2点が考えられます。

  • 人件費の増加
  • 価格転嫁の難しさ
人件費の増加
最低賃金が上昇することで、既存の従業員の給与が増え、企業全体の人件費負担が増加します。特に、利益率が低い業種や規模が小さい企業では、コストの上昇が経営に直結する可能性があります。
価格転嫁の難しさ
一部の企業は、商品やサービスの価格にコスト増を転嫁しようとするかもしれませんが、顧客の価格に対する敏感さが高い場合、競争力を失うリスクがあります。

年収106万円の壁とは?

年収106万円の壁とは、主にパートタイム労働者が社会保険に加入する義務が発生する年収の基準です。配偶者が年収106万円を超えると、被扶養者から外れ、社会保険料支払いが発生する可能性があります。その結果、実質的な手取り額が減少することが懸念されます。

以下の5つの条件をすべて満たす従業員が社会保険の加入対象となります。

要件
被保険者総数が常時51人以上の事業所に勤務していること
(2024年10月から、これまでの被保険者総数が常時101人以上から拡大されます。)
週の所定労働時間が20時間以上あること
所定内給与の月額が8万8,000円(年収約106万円)以上であること
2ヵ月を超えて継続して雇用される見込みがあること
学生ではないこと(ただし、休学中や夜間学生は除く)

年収106万円の壁が企業に与える影響

  • 従業員の働き方への影響

年収106万円を意識する従業員は、就労時間を制限するか、もしくは追加の収入を得るために社会保険料の支払いを覚悟する必要が出てきます。このため、企業としては、従業員の勤務時間を調整するか、逆にフルタイム勤務を推奨するなど、柔軟な対応が求められます。

  • 労働力の確保の難しさ

特にパートタイム労働者が多数を占める業種では、従業員が年収106万円の壁を避けるために労働時間を短縮することで、労働力不足が顕在化する可能性があります。結果として、企業の生産性が低下するリスクがあります。

年収106万円の壁と最低賃金引き上げの関係

最低賃金の引き上げにより、従業員が同じ労働時間を働いた場合でも年収が増加するため、年収106万円に達する人が増加します。例えば、最低賃金が1時間あたり50円上昇した場合、従業員が年間に働く総時間数によっては、年収106万円を超える可能性が出てきます。

具体例

最低賃金が1時間あたり1000円の地域で、週20時間働くパートタイム労働者の場合、年間の労働時間は約1040時間となります。この場合、年収は約104万円であり、壁を超えないギリギリのラインです。しかし、最低賃金が50円上昇した場合、同じ労働時間で年収が約109万円に達し、106万円の壁を超えてしまいます。

中小企業経営者が考慮すべきリスクと課題

中小企業経営者は、最低賃金引き上げと年収106万円の壁がもたらす影響を慎重に評価し、対策を講じる必要があります。以下に、主なリスクと課題、対策を示します。

中小企業におけるリスクと課題

年収106万円の壁に対応しつつ、労働力確保や社会保険料負担を考慮し、業務効率化や従業員への説明を進める必要があります。

1. 従業員の勤務時間調整と労働力の確保

従業員が年収106万円を超えないように労働時間を制限することを望む場合、企業側でのシフト調整が必要になります。繁忙期に十分な労働力を確保できなくなるリスクや、労働時間の調整が難しい場合には、従業員のモチベーションや就労意欲に悪影響を及ぼす可能性も考えられます。

2. 労働力不足と業務の効率化

従業員の労働時間が短縮されることで、企業が必要な労働力を確保するのが難しくなると、一部の従業員に負担が集中し、業務の効率が低下する恐れがあります。これを避けるためには、業務の効率化や自動化技術の導入が求められる場合もあります。

3. 社会保険料の負担増加

従業員の年収が106万円を超え、社会保険に加入する場合、企業側でも社会保険料の負担が増加します。中小企業にとっては、このコストが経営を圧迫する要因となるため、どのように人件費を最適化するかが重要です。

4. 従業員への説明と理解の促進

最低賃金の引き上げや年収106万円の壁に関しては、従業員自身が十分に理解していない場合もあります。従業員に対して制度の説明を行い、自身の労働条件や所得について適切な判断を下せるように支援する必要があります。

企業が取るべき対策

中小企業経営者がこの問題に対処するためには、以下のような具体的な対策が考えられます。

労働時間の柔軟な管理
従業員のニーズに応じて、労働時間を柔軟に調整する仕組みを導入することが重要です。シフト制やテレワークの活用など、従業員が働きやすい環境を整えることで、労働力不足を回避できます。
社会保険加入者のメリットを強調
社会保険に加入することで得られるメリットを従業員に伝えることで、年収106万円の壁を超えることに対して前向きになる可能性があります。特に将来的な年金受給や医療保険のカバーについて説明することが効果的です。
業務の効率化と自動化の推進
労働力が不足する状況に備え、業務プロセスの効率化や自動化技術の導入を進めることが、長期的には企業の競争力を維持する鍵となるでしょう。

まとめ

2024年10月の最低賃金引き上げと年収106万円の壁は、中小企業にとって人件費増加や労働力確保の課題をもたらします。

これに対し、柔軟な労働時間管理や業務効率化の推進が必要です。

さらに、従業員に制度を十分説明し、モチベーション維持を図ることで、企業と従業員双方にとって最適な解決策を見つけ、安定した成長が期待できます。

本記事の内容は、投稿時点での税法、会計基準会社法その他の法令に基づき記載しています。
また、読者が理解しやすいように厳密ではない解説をしている部分があります。
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