国税庁は、平成30年11月、所得税について、平成29事務年度(平成29年7月から平成30年6月までの間)に実施した調査等の状況を公表しました。
同様に、福岡国税局でも管内の調査状況等が公表されているので、その状況について主だったものをまとめてみました。
所得税の申告漏れの状況
所得税の調査では、高額・悪質な不正計算が見込まれる事案を対象に実地調査を優先して実施するほか、文書、電話による連絡又は来署での面接により、申告漏れ、計算誤り又は所得(税額)控除の適用誤りがある申告を是正するなどの簡易な接触を実施しているようです。
申告漏れ所得金額の状況
申告漏れ所得金額は、実地調査によるものが216億4千9百万円(前事務年度218億4千7百万円)、そのうち特別調査・一般調査によるものは187億3千5百万円(前事務年度188億3千9百万円)となっています。
追徴税額の状況
実地調査による追徴税額は、38億3千2百万円(前事務年度37億1千4百万円)であり、そのうち特別調査・一般調査によるものは35億8千7百万円(前事務年度34億6千8百万円)となっています。
申告漏れ所得金額が高額な上位10業種
申告漏れの所得金額が高額な業種としては、1位は「中華そば」で1件当たりの申告漏れ所得金額は1,648万円、2位が「一般貨物自動車運送」で1件当たりの申告漏れ所得金額は1,597万円、3位が「型枠工事」で1件当たりの申告漏れ所得金額は1,338万円となっています。
*申告漏れ所得金額は、いずれも特別調査及び一般調査によるものです。
海外投資等を行っている個人の調査状況
海外投資を行う個人や海外資産を保有する個人に対しても、国税庁では、積極的に調査を実施しています。調査としては国外送金等通知書、国外財産調書によるものの他、平成30年9月からはCRS情報(共通報告基準に基づく非居住者金融口座情報)なども積極的に活用されているようです。
共通報告基準(Common Reporting Standard/CRS)
CRSは、外国の金融機関に保有する口座を利用した国際的な租税回避を防止するために、経済協力開発機構(OECD)が策定した、金融口座情報を自動交換する制度です。
平成29事務年度における実地調査(特別・一般)の件数は、182件(平成28事務年度100件)となっています。
1件当たりの申告漏れ所得金額は、914万円(平成28事務年度1,576万円)となっており、所得税の実地調査(特別・一般)全体の1件当たりの申告漏れ所得金額844万円(平成28事務年度804万円)の約1.1倍となっています。また、申告漏れ所得金額の総額は16億6千3百万円(平成28事務年度15億7千6百万円)に上ります。
「富裕層」への対応
国税庁では、有価証券などの大口所有者、高額所得者である「富裕層」に対しても積極的に調査に取り組んでいるようです。
平成29事務年度における実地調査(特別・一般)の件数は、228件(平成28事務年度147件)、追徴税額は総額で4億6千1百万円(平成28事務年度2億8千3百万円)となっています。
無申告者に対する調査状況
最後に無申告者に対する調査状況です。所得税、消費税(個人事業者)ともに平成29年度の調査では、いずれも増加傾向にあります。
所得税無申告者の調査状況
平成29事務年度における所得税無申告者に対する実地調査の件数は、243件となっています。1件当たりの申告漏れ所得金額は、1,793万円となっており、1件当たりの追徴税額は234万円になっています。
消費税無申告者の調査状況
平成29事務年度における消費税無申告者に対する実地調査の件数は、424件となっています。1件当たりの追徴税額は、173万円となっています。
■文責 井手昭仁
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